かわいくって しようがない


繊細そうな色の白さを表すのに “泡雪のような”という言い回しがあるが、
ほわほわと危なっかしくもすぐ消えそうな白かなと思ってた。
幻想みたいな掴みどころがない対象。
妄想家が使いそうな言いようだなと、ちょっと上から思ってた。

 だから、この子のありようを見て、ふとそれが当てはまると気が付いて。
 強い子なのに雄々しい戦いっぷりも知っているのに、
 それでも守ってやらねばと思うのはそんなせいなのだろうと思い知る。

自分と同じ世界に住むとは言えぬが、それでも近しい、暴虐に縁の深い立ち位置にいる。
そもそもからして、普通一般的な生まれや育ちではないそうで、
筆舌に尽くしがたい虐待を受け続けていた身だという。
当人はもう終えたことだからとケロッとしているが、
時々のたまに困ったような顔をしてそういうことには縁があったという言い回しをするのを拾い聞き、
ああそうかと後から納得した自分で。
ただ、そんなすさんだところで育ったとは思えないほどに、真っ直ぐな性根をしていて、
あらゆるものへ負けるものかと、どんな荒武者でも逃げ腰になろう凄惨な戦いへも敢然と頭を上げている。
その身に宿した異能のせいだけじゃあなく、気概の上でも人並外れた根性骨であり、
自分が生き延びるためではなく、
何かしらの約束のためだったり、誰かしらの安息のためだったりへ捨て身で奔走するところが
無垢であるがゆえに小気味のいい少年で。
何でもない時ほどちょっぴり及び腰になって笑うのがまた、何とも言いようのない目映さを孕んで見える。
その姿が白いからというだけじゃあなく、無垢で真っ直ぐな実直さや、
流されそうになっても必死で歯を食いしばり、逃げないぞと踏ん張る一途さが、
世の穢れや醜さを山ほど見てきた自分には途轍もなく眩しいのかも知れない。

 「どうかしましたか? 中也さん。」

今日はちょっと蒸すのでと、
最近美味しい淹れ方を頑張っている紅茶、クラッシュアイス入りの涼し気なグラスへそそいで
“どうぞ”とテーブルへ出しながらも、
こちらからの凝視に気づいたか、幼い仕草で小首をかしげる子虎くんで。
Tシャツにグレーと青のチェック柄の大きめオーバーシャツを羽織り、
ボトムはくるぶしが覗く丈のデニムのストレートパンツ。
初夏の明るい光が満ちた中、こざっぱりとしたいでたちなのが何とも爽やかで、
淡い紫と琥珀が入り混じる 明け方の空のような虹彩が据わった双眸が、
ぱちぱちと瞬いてそこも可愛らしい。
ひょろりと背は高い方だが、それでも幼子みたいな印象が抜けず。
平生の腰の低さのせいだろか、
いつもいつも上目遣いで見上げられてるような印象が抜けないままであり。
ふと口を噤んで、だが視線は自分へと向けたまま、
何を思うか読めない相手なのが不安か、いやさ視線の甘さがくすぐったいのか、
柔らかそうな口許をちょっとばかりとがらせ気味なのがまた可愛いと、
今は愛用の黒手套を外した手でグラスを手に取り、
上手に淹れられたダージリンを一口堪能すると、

 「なに。俺の敦が今朝も可愛いんで、ついつい見惚れていたまでだ。」
 「………っ☆」

何でそういう歯が浮きそうな言い方を、それもボクを相手にするんですよぉと、
含羞みから一気に ぶわっと真っ赤になるところが、全く進歩のない可愛い子ちゃんで。
ちょっと…ほんのちょこっと残念なのは、ギリでまだまだ成長期らしいので、
出会ったばかりの頃よりまたちょっと背が伸びたらしかったが、その割に横には育たないのが少々案じられ。

 “もしかして虎の異能は、
  無駄な肉がついても元通りになれって再生が働くようになってんのかなぁ。”

肉まで抉るような大怪我もひどい火傷も、
早回しの動画を見ているような奇跡的な速度で
するすると無かったことにされる回復力を持つ敦で。
それでも痛みは伴われようから平気だなんて嘘をつくなと、
自分は頑丈だから大丈夫だなんて言って無茶するなと、
探偵社の先達らも常々指導はしているらしいというに、
そこのところはなかなか学習しないらしく。

 『誰かに生きてていいよと言われないと生きてちゃいけない、
  そのような戯言を言うておりました。』

そこのところは彼も腹立たしいものか、
敦が自身のおとうと弟子にあたると意識して以降、
庇う顔触れに加えたらしき芥川が、なればこそ忌々しいと口にしていたのを思い出す。
頼りないと思うわけじゃあない。
過酷な戦いをくぐり抜けるごと、どんどんと強くなってく成長株で、
何でも任せられる実力を付けるのは 頼もしいし誇らしくもあるものの、
それでも辛い想いをさせるのは忍びない。
後で聞かされては後悔の苦渋から胸の底が焼けつきそうになるほどに、
それほどに大事にしたい対象だからで。

 「拗ねてる顔も、含羞み顔も可愛いぜ?」
 「中也さん〜。//////////」

筋肉盛々が好みとは言わないが、
それでも怪我を負わぬよう、異能が関わらぬ自前でバルクアップもしてほしいところだがと、
ちょいとむくれる虎の子くんの ふわふかな頬を手のひらで包み込み、
自身の無謀さや面倒見のよさは棚に上げ、にまにまと笑う幹部様だったりするのだ。



  
HAPPY BIRTHDAY! ATUSHI NAKAJIMAvv


     〜 Fine 〜    21.05.07.


 *仔虎くん、褒め殺しにあう。
  すみません、時間がなさすぎで何書いてんだという出来に…。
  何か事件でも絡ませないと、
  各々のいいところやら関係性やら発揮させられないへたくそです。
  地味に忙しかった4月が憎い…コロナ禍のばかやろう。